小さい頃の食事風景を思い出してみた。朝は、必ず母のまな板を叩く包丁の音で目が覚めた。眠くて布団をかぶるのだが耳について音が離れない。
朝のおかずも頑に決まっていて、納豆、ロースハムのハムエッグ、刻みネギとおろし生姜を乗せた厚揚げ、味噌汁、ご飯。この献立から外れたことは一度も無かった。
私の日課は鍋を持って1キロ離れた豆腐屋に厚揚げを3枚買いに行くことで当然の事毎日だった。だからと言って特に不満は無かった揚げたての厚揚げは温かくてふわふわで本当に美味しかったからだった。
ある日、父も母も祭りの手伝いで一人で食べた事があって、同じ献立なのに美味しくも感じない箸も進まない隣の皿に手を出す気にもならなかった。
今にして思えば、大勢で食べることこそが一番の調味料だったに違いない。
故郷を離れて一人暮らしでの食事は『腹が減った』から『餓死』しない為で美味しいののを食べたいわけでは無かった。現にカニを食べても張り合いがないというか味がしないのだ。味覚が変わった訳では無く休みで実家に帰るとご馳走でもない食事に何杯でもおかわりが出来ていた。
何を出されても一人では美味しくない。
何を出されても二人なら美味しい。
となる。